Chapter Text
ミオリネは扉を開けた。逃げ出すためだ。
今まで何をするかどう生きるか決めたのはミオリネ自身ではなかった。ミオリネの力ではどうにもならなかった。ただ敷かれたレールを走るだけが許されている。大声で拒否してもそこから逃げ出しても、歩む道を決めるのはミオリネではなかった。
言うならば、出される食事が決められているようなものだ。テーブルから逃げても部屋から逃げても食べるものはなく、出された食事を食べるしかない。
ミオリネはミオリネなりのやり方で抵抗し続けた。
アーシアンの母親の痕跡を消そうとする父親に反抗する。
母親が愛した植物を植える。花を育てる。屋外に作った温室は誰にも咎められなかった。お金だけは十分に与えられていた。それがまた腹立たしかった。パーメットの採掘権を独占するベネリット社が生活に与える影響は甚大だ。軍事と安全を管理していることはすなわち、すべての人の移動を把握することが可能ということだ。ミオリネがどこに行こうと何をしようと、父親デリング・レンブランにとっては大差ないということだろう。
ミオリネは元理事長室を観葉植物で埋めていった。宇宙で地球の植物を育てるのは難しい。誰も好き好んで地球の植物を育てようとしない。宇宙には宇宙の環境に適した植物があるからだ。
最初はミオリネも育てるのに失敗した。高価な苗や種を台無しにした。希少な肥料を取り寄せたが合わないということもあった。しかし一年も経つと次第にコツが分かってきた。壁も床も、瑞々しい葉で埋まっていく。
それは小さな満足感を与えるとともに、しかし息の詰まるような閉塞感は減らなかった。
――すべてがバカバカしい。
ホルダーが結婚相手だと父親は言った。結婚しろではない。命令ですらない。ミオリネ・レンブランの生きる道はこうだと示しているだけだ。現在のホルダー、グエルは父親がCEOを務めるジェターク社の豊富なバックアップを得て二十勝以上無敗だ。すべてが、すべてが決められている。
ミオリネは我慢ができなかった。
これは自分が選んだものじゃない。何一つ、選んでいない。
なんとかして自分の道を歩みたかった。
そうは言うものの、父親……、ベネリット社の息の掛かっていないものを探すのは難しかった。探し続けてようやく見つけたのは密輸業者だった。彼らは正規のルートではなく正規品ではないものを運んでいる。ミオリネはそのうちの一つの会社に、バカバカしいほど高い料金を少しずつ貯めてきたお金をすべて使って支払った。
行き先は地球。
しかし決行の日、ミオリネは失敗した。
ランデブーポイントはそれほど離れた場所ではない。
そのランデブーポイントまで行くことさえ、ままならなかった。ここまで監視が厳しくなければ簡単だったはずだ。小惑星の船舶の出入りはすべて監視されている。ミオリネが忍び込む予定だった船はすでに出航してしまった。
もう一度支払う余裕はない。これを逃せば二度目はいつになるか分からない。ミオリネが結婚可能になる日は刻一刻と近づいている。
ミオリネは無謀にもハッチを開いた。
酸素が持つかどうか分からないが、やってみる価値はあると思った。何もしないまま無為に過ごすよりはマシだ。
結論から言えば、生身の体一つで行くには遠すぎる距離だった。
ミオリネは小惑星から離れることさえできずに宇宙服の酸素は減っていく。
目の前には暗い宇宙が広がっている。小さな小さな恒星たちが白く瞬いている。
そこで初めてミオリネは気づいた。
そこで初めてミオリネは、死がすぐそばまで迫っていることに気づいた。
出される食事が決められていて、テーブルから逃げることも部屋から逃げることもできないのだとしたら……、そこで食べることを拒めば自分の道を選択することになるだろうか?
――死は自分の道だろうか?
決められた道を選ばなかった。これが選択なのだろうか?
少しずつ息苦しくなり始める。体が重くて仕方ない。
ついに体を動かすこともできなくなって、ぼんやりとミオリネは目の前に広がる暗い宇宙を見つめた。
遠く、遠く、ほのかに青く輝く恒星が見える。
同じ宇宙を見つめているのにさっきまで気づかなかった。
青い恒星は輝きを増していく。
――恒星じゃない。
それは一機のモビルスーツだった。
これまでミオリネが見たことのないようなデザインをしている。
そのモビルスーツがミオリネに向かって近づいてくる。
ミオリネは目を見張った。
