Chapter Text
藻掻いて、息しづらくなるほどの、最初から意味すら成さないから、喜ぶどころか、悲しみすら感じない、空白。
たくさんの声があるようでも、それが存在しないのと同然の無念無想無形相。目に見えるが、それが映らない、形がない、それが同時にどんな形にもなれる、虚無。
時間と空間の意味がなく、思想だけが無限にまで広がり、だが概念すらままにならない。一生は一瞬のように短く、一瞬で一生を振り返るほど長い。
それが、見たゲートの向こうだった。
理:(目を開いた)
エイメス:私だけだと思ったのに……先客、かな?
理:……
エイメス:ね、ここに現れてるってことは、あなたもすごい人なんでしょ?
あの人みたいな……救世主、とか?
理:……
エイメス:ねえ、返事ぐらいしてよ、これじゃ私、ただの変な人みたいじゃない?
……って、もうゴーストだから、人ですらないんだけど。ツッコんでくれる人もいないしね……
理:……
エイメス:でもさ、心の現れなのにイヤホンをつけてるってことは……
音楽、好きなのかな?
理:……
エイメス:あなたも、私の大切な人みたいに「すごい人」って思われてて、
本当は、寂しいなんて言えなかったりして?
理:(目を閉じる)
エイメス:…私ね、最期にあの人に会えてよかったって思ってる、
あの人がいない間も、ちゃんと世界を守れた。
いい学生でいられたことも、あと少しで発表できるはずの曲も、ファンのみんなの前で、
あの人の前で歌えて、
そのすべてがうれしかった。
ちゃんとわかってるわ。救世主、なんて、わざわざ目指すほど立派なものじゃないことぐらい。
……誰か一人でも、その重みを分けてくれる人がいたら、あの人も少しは楽できるでしょう……
理:……
エイメス:私ばかり話してるの、やっぱり少し寂しいね……でも、もう慣れた。
ここは何もない虚無、心の準備はしてたつもりだけど、学園でゴーストとしているよりつまんないね……
理:……
エイメス:でも、あなたには聞こえてるんでしょ?私の声。
目を閉じたってことは拒否か…いや、単に疲れただけかも?
はーい、そこでフリート?スノーフラッフのチアリング曲歌いますね。
返事がないなら、許可ってことにしちゃうね。
理:……
エイメス:私、歌うの得意なんだ。だから、勝手に歌うね。
?照らす 夜明けの色 描く この世界を
そのやさしさは 終わりさえ変える
ずっと 絶やさないで 星の灯を?
理:……終わり
エイメス:…うん、終わりさえ変える。だから、その火を絶やさないで。
あなたにとって大切な人も、きっと…あなたを見捨てたりしない。
理:ここが……終わり
エイメス:諦めなければ、きっと変えるよ。
理:……どうでもいい
エイメス:どうでもいいなんて言わないで、大切な人を信じてあげよう。
難しいかもしれないけど……
大切な存在だからこそ、きっと、あなたのために道を切り開いてくれる。
理:……
エイメス:あなたが一人で全部背負わなくていい、
その重みを分け合える人は、きっと現れるよ、信じてみて。
理:……(目をまばたいた)
エイメス:……
理:……っ
エイメス:私、後悔はしてない。
理:……
エイメス:あなたも、あなたにしかできなかったことをしたのね。後悔は、ある?
理:後悔しない。
エイメス:だよねー。もう少し学生生活を満喫したかったのに……でも、彼女たちの卒業式が無事に終わってホッとした。
理:君も、学生だった?
エイメス:そう、ゴーストになって、今年で10年目かな、それまでは優等生だったよ。先生には「世界を救う」という夢で叱られた以外いつも優秀…って、その日から幽霊になったのね。
理:……ひどいね。
エイメス:私にしかできないことだったから……
でも、やっとまともに会話できたね。
理:……卒業おめでとうって、センパイたちには言えなかった。
エイメス:きっと、あなたが守った世界で安らかに生きてるよ。
理:そうだと、いいね。
エイメス:私はエイメス、スタートーチ学園のラベル学部で三年生、と幽霊になる前はそうでした。よろしくね。
理:結城理、月光館学園高等部二年、よろしく。
エイメス:私が先輩ってことになるのかな。
ちゃんとかっこよくしないとね。
……いや、でもあなたの方が先に来てたし、やっぱりあなたが先輩?
理:どうだろう…ここに時間の概念があるとは思えないけど。
エイメス:それもそうね。じゃあ……結城くん、って呼ぶね。
私、独り言が得意だから、これから、もう少し喋ってもいい?
理:……別に、どうでもいい。
エイメス:じゃあ、いいってことにしておくね。
どうやってここに来たのか気になるけど……話してくれなさそうだし、先に私から話すね。
ヴォイドマッターという物質を通して、過去の世界に戻ると、世界を破壊する災いを封印できる。
それはすでに歴史に書かれて、決められたこと。
これで、全てが繋がり、私の生まれも、大切な人との出会いも、その全てが結びついた。
今いるここは、そのゲートの向こう…かな。
理:…なるほど。
エイメス:違う時間、違う空間で飲み込まれた存在が同時に現れる…という設定だったけど、こうして誰かに会えたのは、初めてかも。
……ねえ、あなたについて、少しだけ話してくれない?
理:……終わりが、来るはずだった。
僕が、それを止めるために…
ここは……その結果だ。
エイメス:そうなんだ…
終わりさえ変えたね、すごいわ!
私ばかり話すのもちょっと不公平と感じたね。結城くんは、なにか聞きたいことでもあるのかな?
理:……君がずっと言ってた「あの人」って、どんな人だった?
エイメス:超ーすごいのよ!
ただの猫なのに世界を救おうとするんだよ?すごいでしょ。
……なのに、あの人を見放した人たちがいて、それが、どうしても許せなかった。
理:……ねこ?
エイメス:たとえ話だよ。
あの人なら、鳴式だって倒せるかもしれない。
でも、もう、一人で全部背負う姿は見たくない。
理:仲間はいないのか?
エイメス:…いるよ。……そうだね、
あの人はもう、昔よりずっと軽くなったね。
理:それでいいんじゃないか。
エイメス:……そうね。あなたの仲間は、どうだった?
理:……楽しかった。
エイメス:それで、十分だよ。
理:ずっと気になってたんだけど、エイメスさんのそのハートのマーク、何?
エイメス:ああ、これ?メーターだよ、色も変えられるし、面白いでしょ。
理:ゴーストにメーターって…?
エイメス:これはエクソストライダーと共鳴した証、
満タンになるとー、メカモード。【エクソストライダーを召喚できる】
理:…へぇー、すごいな。
…アイギスは、今どうしてるんだろう。
エイメス:【メカモード、解除】アイギス?
理:対シャドウ用の兵器だった。
彼女は……僕を守りたいって言っていた。
そのために、生きていけるって……
……ごめん。
エイメス:だったってことは、今は違うの?
理:ええ、心が宿った。
エイメス:あなたを守るため?
理:…そうかも。
エイメス:その「アイギス」って子、機会があれば会ってみたいね。私のメカモードと比べて、どっちが強いだろう。
理:…戦う気?
エイメス:切磋琢磨だよ。あなたを守るために宿った心なら、会ったことないけど、わかれる気がする。
私のメカモードは、私の大切な人を守るために変身したの。
本当は、あの人が私から離したとき、いかないでと言いたかった。
理:……
エイメス:でも、これがあの人の使命。世界を救う使命。
私も、あの人みたいな救世主になれたら、何もかも一人で背負わせず、楽になれるだろうと思った。
それでも、本当は辛かった。どうして返事くれないの、どうして私の入学式に来てくれないの、どうして忘れちゃったの?
理:……
エイメス:でも、それでも…
これが「漂泊者」だよ。
自己犠牲でも、拙い優しさでも、他人のために精一杯なところも、全部、「漂泊者」だよ。
理:……
エイメス:私が、あなたに会うのははじめて、
でも、私の勝手な思い込みかもしれないが、あなたが抱えてることは理解できる気がする。
理:……
エイメス:人それぞれで、きっと実際に向き合ってることが違う、でも……
あなたは、あの「アイギス」って子を、悲しませたかもしれない、
理:……
エイメス:でも、これもあなたが選んだことで、「アイギス」は、あなたを大事に思ってるなら、
大丈夫。きっと理解してくれるよ。
理:…そうだね、であります。
エイメス:少し元気出たみたいで、よかった。
理:…ありがとう。
エイメス:うるさいって思われてないみたいで、安心した。
ねえ……少し聞いても、いい?
理:……別にいい。何?
エイメス:救世主になるって、一体どんな気持ちだった?
理:……
エイメス:あの人は、どんな気持ちで過去を捨てた?
あの人が憧れて救世主になった今も、
少しはあの人の気持ちをわかったようになったつもりでも……
それでも、あの人が背負った重みと比べたらきっと大したものじゃない。
私は……大切な人の誇りになれたかな。
理:……なれてると思う。
いきなり世界を救おうと言われた僕は、
最初は、ただ運命だと思って引き受けただけだった。
でも……みんなと過ごす時間が、楽しかった。みんなこそ僕の宝物だと思った。
だから、僕ができることをした……それだけ。
エイメス:……がっかりさせてないのかな。
理:最期に……みんなの声が届いた。
だから奇跡を果たせた。
君の大事な人も……きっと、君に届こうとしてる。
エイメス:そうだと、いいな……
理:人を慰めるのは苦手で、ごめん。
エイメス:ううん、私が勝手に落ち込んだだけ。
(少しの沈黙)
エイメス:ねえ……
あなたも、ずっと……聞こえてたの?
理:……
エイメス:あなたも…苦しみや絶望の声ばかり聞こえてるの?
理:……ああ。
エイメス:今までよく頑張ったね、えらい。
理:……後悔はしていない。
僕が選んだ世界で、みんなと一緒に守れた未来だから。
……ただ。
もう一度、逢いたかった。
エイメス:……うん。
私も…勝手に死んじゃってごめんね、ずっとそばにいるよ、とお友達に言いたかった。
もう……帰る道、ないんだね。
理:君の言ってた「あの人」は、すごいだろう。
エイメス:うん。
理:なら……来ると思う。
エイメス:……
理:君のところまで。
エイメス:…どんな対価を払うことになるの?
ラハイロイは…私がエクソストライダーと共鳴して、アレフ1を封印しないと、
存在しなくなるかもしれない。
違う時空で、私はあの人と雪の中で出会えたから。
……それで、もう十分。
理:……そうか。
…でも、ここで悩んでも、変わらない。
エイメス:……だね。
…ねえ、そのプレイヤー、レコード機能ある?
理:……ない。そもそも、もう使えない。
エイメス:かっこつけ?
理:……そうなるね。
エイメス:私はデジタルゴースト、旧式のプレイヤーだけどなんとかなれるかも。
私に貸して、ちょっといじっても大丈夫?
理:大丈夫、もう使えないし。
(データ化したエイメスの一部がプレイヤーに潜り込んだ)
エイメス:うん…パーツは壊れてないし、
たぶん、この場所が虚無だから無音になっただけ…
…ここをこうして、っと。
バッテリーは…うん、そうしよう。
ねえ、つけてみて?
理:……音が、
これはすごいな。…ありがとう。
エイメス:ちょっとしたプレゼントも残したよ。
(エイメスの手に青いディスク)
この声が、あなたを導けるように。
理:わかった……ありがとう。
エイメス:もし、私の歌が邪魔と思うようになったなら、スキップしても、削除してもいいからね。
本体は削除機能もないようだが、私の歌だけを削除できるように、『ノイズ』として紛れ込ませておいたから。
理:……消さないよ。たぶん。
エイメス:そう言ってくれてうれしいわ。
……きっと、また会えるから。
理:……なぜ、そう言い切れる?
エイメス:願いだけ。……長い時間の中で、何が起こってもおかしくないよ。
道が分かれるまで、叶わない白昼夢を見た。
