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「笹波雲明くん、これが今回の再検査の報告書です…」
医者は病室の椅子に横向きに座る私に向き合い、私の病状に関わる検査結果を手にしていた。
月に一度の心臓病の定期検診。本来なら病気がちな私にとってこれ以上ないほど見慣れた光景のはずだった。しかし今は…
かつて私が「恋の病」にかかったと笑ってからかった医者の顔には、私が今まで見たこともない、まるで明日が世界最後の日であるかのような表情が浮かんでいた。
「先ほどの診察では、この1ヶ月間特に目立った体調不良はなかったと言っていましたが…
「報告書の各データを見ると、あなたの心臓の健康状態は先月と比べて、明らかに、そして極めて深刻な悪化の傾向が見られます…
「これはつまり、これまでの治療法が、このような悪化の傾向においては全く効果がなくなってしまったことを証明しており、同時に…」
喫茶店「タンク」のいつもの席に座り、目の前には一口も手をつけていない、すっかり溶けてしまったカステラパフェが置かれている。
サッカー部の皆と一緒に来たことのある喫茶店で、いつもの席で、大好きなカステラパフェのはずなのに…
病院を出る前の医者の最後の一言のせいで、私は全く食欲が湧かなくなっていた。
「もう一度検査をして、全く新しい治療方針を立てます。もし来月の検診でも、このままのペースで悪化が続くようであれば、笹波くん、あなたはもしかすると…」
間もなく死に直面するかもしれないという暗い影に頭の中が支配され、次第に目の前が涙で覆われ、視界がぼやけていった。
数年前に「サッカーから逃げたくて」南雲原に入学したこと、桜咲木曽路と一緒にサッカー部を作ったこと、隠された廃部の真相を皆で突き止めたこと、野球部との初めての試合、北陽学院との熱戦から、フットボールフロンティアの優勝を果たし、皆と一緒に頂点の景色を見下ろしたことまで…思わず振り返ってしまった。
もし私が本当に近い将来死んでしまったら、この起きたことすべてが私とは無関係になってしまう。
もちろん、それだけじゃない…
校舎の屋上で来夏と出会ったこと、彼女の運命を変えたダンス大会、そしてあの日の来夏への告白…またしても思い返してしまった。
当然、もし私が本当にこの世界から去ってしまったら、来夏は永遠に私を失う苦しみから抜け出せなくなり、そのまま落ち込んでしまうかもしれない…。
視界が次第に鮮明になり、右手首に結ばれた黒いヘアゴムに目がいった。それは告白したあの日、来夏が私にくれた「お守り」だ。
私は最後に、このヘアゴムに触れた。
来夏に愛する人を永遠に失う苦しみを味わわせたくないなら…もうこうするしかない。
そう心に決め、ポケットからスマートフォンを取り出し、来夏に電話をかけた。
「来夏、もし時間があるなら…喫茶店タンクに来てくれないかな…
「少し…話したいことがあるんだ」
家を出ると、外は急にどんよりと曇っていた。雨が降るのだろうか?
部屋で学校の宿題を終わらせたばかりの時、雲明から電話がかかってきた。喫茶店に来てほしい、話したいことがあるからと。
それはごく普通のことなのに、さっきの電話越しの雲明の口調からすると…
まるで、何かとてつもなく絶望的な出来事に遭遇したかのようだった。
雲明の彼女として、私は絶対にいの一番にその苦しみを分かち合わなければ…
そう思うと、自然と足早になった。
喫茶「タンク」の軽い木製のドアを押し開けた途端、外は土砂降りの雨になった。
店長のミドリおばさんにカウンターへと引っ張られ、こっそりと何かを耳打ちされた。
「ねえお嬢ちゃん、もしかして…窓際の席にいるあの青緑色の髪の男の子と喧嘩でもしたの?あのね、恋人同士の喧嘩っていうのは、どちらかが先に頭を下げて謝らないとダメなのよ…
「あの子、さっきお店に入ってきてからずっと机に突っ伏して大泣きしてるの。いつもならペロリと3杯は食べるパフェも、一口も手をつけてないわよ…」
女将さんの矢継ぎ早の質問攻めに遭い、その大量の情報を処理しきれないうちに、カウンターから押し出されてしまった。
「2つのカステラパフェは私のおごりにしてあげるから、絶対に仲直りするのよ!」
窓際の角の席へ向かうと、雲明も私の足音に気づき、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、無理に笑顔を作って私を見た。
「来夏…来てくれたんだね…いつもの席でいいかな?」
雲明が立ち上がって道を空けてくれ、私はその一番端の席に座った。左側には愛する人、右側には外の景色。サッカー部が創設されて以来、私と雲明はずっとこの席に座っていて、それが暗黙の了解のようになっていた。
女将さんはすっかり溶けてしまったスイーツを片付け、新しいカステラパフェを2つ運んできた。
「お二人には本当に感謝してるのよ。あなたたちがサッカー大会で優勝して、付き合い始めてから、チャンピオンカップルが大好きな同じパフェを食べようと、たくさんのお客さんが来てくれるようになったんだから!」
女将さんの腕前は相変わらず素晴らしく、イチゴ、カステラ、クリームアイス、そして砕いた氷が完璧なハーモニーを奏でている。甘いものが苦手な人でも、この美味しさを前にすれば思わず一杯食べてしまうだろう。
雲明もそんな甘党の一人で、初めてここで話をした時、雲明がパフェを3杯も平らげ、目を輝かせて満足そうにしていた光景を私は今でも鮮明に覚えている。その時私は、サッカー部の重責を担う目の前のこの人も、他と変わらない、世話を焼く必要のある一人の子供にすぎないのだと感じた。
しかし、そんな美味しいものを前にしても、雲明は全く心を動かされず、私が席についてからも一言も発しようとしなかった。
少し離れたカウンターで、ミドリおばさんが興味津々に見ているのに気づき、私がこの沈んだ雰囲気を変えなきゃいけないんだと悟った。
私はスプーンでパフェのクリームアイスを少しすくい、雲明の口元に運ぶと、彼は素直にそれを食べた。
「雲明、私を呼んで、どうしたの?
「嬉しいことでも、悲しいことでも、彼女の私に何でも話していいんだよ。雲明が悲しいことを私にシェアしてくれたら、気持ちがずっと楽になると思うし、それにね…
「私の大好きな雲明が元気になってくれれば、私も自然と嬉しくなるんだから」
雲明は頷いたが、それでも無言だった。一体何があって、雲明にこんな表情をさせているのだろう?
前のテストで失敗したのかな?サッカー部で何かあったのかな?家族と喧嘩したのかな?それとも…
あれこれ考えているうちに、今の状況で最も最悪な可能性を思い浮かべてしまった。
雲明の心臓病が…また悪化したの?
再び沈黙が訪れ、耳に響くのは、外の絶え間ない雨粒が地面を叩く音だけだった。
これ以上黙っていてはいけない、笹波雲明。このままでは、傷つくのはそばにいる来夏だけだ…
僕は震える手で、カバンに入っていた検査の報告書を取り出し、それを来夏に渡した。
「来夏、これ、さっきの心臓病の再検査の報告書なんだ…
「僕の病状が、本来あり得ないはずの急激な悪化を見せていて…
「医者が言うには…もし次回の検査でもこのままなら、僕はもしかしたら…」
僕はそれ以上言葉を続けることができなかった。どう言えばこの状況を遠回しに伝えられるのか分からなかったが、来夏の目尻が徐々に濡れていくのを見て、彼女もその結末を察したのだと分かった。
僕は無意識に拳を握りしめ、指の関節が少し白くなった。そのため微かな痛みが走ったが、手を緩めることはなかった。
「来夏…僕の計算によると、僕の体調では、これ以上君の未来の彼氏でい続けることは不可能だ…。僕の未来は不確実性に満ちている。君に必要なのは、太陽の下で、緑のグラウンドで一緒に走ってくれる人だ…」
僕は腕につけていた、彼女がくれたヘアゴムを外し、来夏の前に置いた。
「来夏…忍原先輩。君の未来と、南雲原のサッカーの邪魔にならないように、これからは必要な戦術のやり取り以外は、距離を置こう」
僕は顔を背け、来夏を直視することができなかった。でも、未来の来夏の苦しみを和らげることができるなら、そうしなければならない。
ごめん、来夏…。許してほしい、僕のこの別れを。
「今までお世話になりました、忍原先輩。明日、サッカー部の部室で」
僕が席を立ち、喫茶店を出ようとしたその時、忍原先輩が突然飛びかかってきて、僕の襟首をきつく掴み、身動きを取れなくした。
顔を上げて目の前の彼女を見ると、驚きも、ためらいもなく、ただひたすらの怒りがあった。
忍原先輩の手が徐々に僕を引き寄せ、先輩のピンク色の髪から微かにシャンプーの香りが漂ってくる距離になった。
それでふと思い出した。南雲原に入学したばかりの頃、僕も同じようなやり方で、桜咲にサッカーへの情熱を取り戻させたことを。
「笹波雲明!グラウンドでは最後まで絶対に諦めるなって教えてくれたのに、どうして自分のことになると、本当の試練が始まる前に棄権ボタンを押しちゃうの!?」
「ピッチに立つ勇気すらないあなたに、私の監督をやる資格なんてない!」
こんなに怒っている忍原先輩を見るのは、原口智弘に絡まれていた僕を助けてくれた時以来だった。
「私を突き放すことが私のためだと思ってるの?それなら最初から告白なんてしないで、サッカー部なんて作らなければよかったじゃない!
「愛する人が一人で死と向き合うのをただ見てるだけにして、一生『愛し合えたのに手すら繋げなかった』っていう大きな後悔の中で生きさせる…それがあなたが私に押し付ける未来なの!?
「私はあなたを失うことは怖くない!ただ、一緒に思い出を作る機会すら与えてくれないことの方が怖いの!」
忍原先輩は目を赤くして僕に怒鳴り、大粒の涙が僕の服に落ちてきた。今の忍原先輩の涙と訴えの前では、僕のどんな言い訳も、色褪せて無力になってしまうようだった。
「後悔だらけの後ろ姿を私に残すなんて、そんなの残酷すぎるじゃない!」
「試合でファイアトルネードVだって怖くなかったのに、どうして私があなたの世話を焼くことを怖がるって思うの!?どうして私が、あなたが突然いなくなることを怖がるなんて思うのよ!」
その時になって初めて、自分が誇りに思っていた「大局観」が、忍原先輩の前では全く無価値であることに気づいた。
僕の「彼女のためを思って」という推論は、本当は彼女を巻き込むのを恐れた自分自身の弱さでしかなかったのだ。
激しい感情の起伏により呼吸が荒くなり、僕は慌てて弁解した。
「でも……本当に来夏を置いていってしまうのが怖かったんだ……僕のために君が泣いて、落ち込んでしまうのを見るのが怖かった……」
再び沈黙が訪れたが、今回は雨音だけでなく、泣きじゃくる僕たち二人のすすり泣く声も響いていた。
忍原先輩は僕の襟を掴んでいた手を離し、僕をきつく抱きしめ、肩に顔を埋めた。
肩からは温かく湿った感触が伝わり、抑えきれない断続的なすすり泣きが聞こえた。
喫茶店の窓の外では相変わらず土砂降りの雨が降り続いていたが、僕の心の中に冷たい論理と残酷な理屈で築かれていた高い壁は、この瞬間、来夏の熱い涙によって完全に崩れ去った。
僕は運命の残酷な選択肢をすべて正確に計算できると思っていたが、彼女が安全な岸辺に突き返されるより、僕と一緒に深淵に落ちることを選ぶほどの決意を持っていることだけは計算に入れていなかった。でも、もしここでさらに間違いを重ねるようなら、僕は南雲原の監督とは言えないじゃないか。
宙に浮いていた両手はついに震えを止め、僕はゆっくりと、しかし信じられないほど力強く彼女を抱き返し、残されたすべての生命力をこの抱擁に注ぎ込むかのように、彼女をきつく腕の中に閉じ込めた。
「ごめん……来夏……ごめん……」
彼女のピンクの髪の間に顎を乗せ、泣いて震える背中を感じながら、自分でも誰の声か分からないほどかすれた声で言った。
「僕が身勝手すぎたんだ……君のいない未来に向き合うのが怖くて、『君への責任』という言い訳を使って、自分の弱さを隠していた」
僕は片手を離し、テーブルの上に置いていた、本来突き返したはずの黒いヘアゴムを手に取った。来夏の涙で霞んだ視線の中、僕はそれをひどく大切そうに、再び自分の左腕に通した。
黒いヘアゴムが温かい脈拍にぴったりと寄り添い、まるで僕たちの決して切れない絆を再び繋ぎ合わせたかのようだった。
僕は深呼吸をして、彼女の目元の涙を拭い、今までになく力強い視線で言った。
「忍原先輩、先ほどの戦術配置は、これより正式にすべて撤回します。
「この瞬間から、笹波雲明本人の次なる唯一のコア・ターゲットはこう変更します——どんなに苦しい治療を受けようと、どんなに遠い街へ行くことになろうと、僕は全力で生き抜く。
「そして、ずっと、ずっと君の手を引いて、世界の頂点へと歩んでいく。
「この目標は、命を懸けてでも絶対に棄権しない。だから……この退路のない延長戦を、僕と一緒に最後まで戦い抜いてくれるかい、僕のエースストライカー?」
来夏は一瞬呆然としたが、その後涙をこらえて笑い出した。
彼女はまだ真っ赤な目のまま力強く頷き、僕の腕をさらに強く抱きしめた。
「バカ雲明……そう言ったんだからね。今度はあなたが追い出そうとしても、絶対に離れないんだから!」
机の上のカステラパフェはすっかり溶けてしまっていたが、僕たちの試合は、今まさに反撃のホイッスルが鳴り響いたばかりだった。
この悲壮でありながらも心温まる雰囲気が最高潮に達した時、ポケットの中のスマートフォンが突然けたたましい着信音を鳴らし、止まっていたかのような時間を唐突に遮った。
僕は一瞬フリーズし、少し慌てて来夏から離れ、スマートフォンを取り出した。画面には主治医の名前が点滅している。
もしかして、病状にさらに悪い不安要素が見つかったのだろうか?
僕は生唾を飲み込み、少し震える指で通話ボタンを押し、無意識のうちにスピーカーモードにしていた。もう来夏に何も隠したくなかったからだ。
「笹波くん!本当にすみません!深くお詫び申し上げます!」電話の向こうから、極度に慌てふためき、謝罪に満ちた医者の声が聞こえてきた。「あの……先ほど病院のデータを再確認したのですが、さっき君に見せたあの急激な悪化の報告書は……実は、君の診察番号と近い別の重症患者さんのもので……実習生がシステムに入力する時に取り違えてしまっていて……」
「……え?」
「たった今、君の本当の報告書を受け取りました!」医者の声には少し安堵の色が混じっていた。
「君の各数値は悪化していないどころか、先月よりもさらに安定しています!今の治療ペースを維持していけば、状況は非常に楽観的です!本当に驚かせてしまって申し訳——」
医者が話し終わるのを待たずに、僕は呆然と電話を切った。
喫茶店の片隅は死に絶えたような静寂に包まれた。カウンターで鼻歌を歌いながらグラスを磨くミドリおばさん以外は。
僕はゆっくりと顔を向け、向かいに座る来夏を見た。
彼女の顔の涙はまだ乾ききっておらず、目元はまだ真っ赤だったが、今は口を少し開け、呆然と僕を見つめていた。まるでこの大きなどんでん返しからまだ立ち直れていないかのようだった。
数秒後、来夏は勢いよく鼻をすすり、その後「ぷっ」と吹き出した。その笑い声はどんどん大きくなり、最後には涙を拭いながら、遠慮なく拳を振り上げ、僕の肩を軽く叩いた。
「私の涙とさっきの感動を返してよ!この大バカ!」
怒りながらも笑っているその愛らしい様子を見て、僕は一日中胸につかえていた大きな石が瞬時に粉々に砕け散るのを感じた。僕は彼女の打ってきた手を掴み、たまらず一緒に笑い出した。それは本当に死神の手から逃れた後、内側から湧き上がる極度にリラックスした笑いだった。
「戦術は……また立て直さないといけないみたいだね」僕は彼女の手を握りしめ、小声で言った。
その時、耳に響いていた絶え間ない雨粒がガラスを叩く音は、いつの間にか静かに止んでいた。
眩しい金色の光が突然どんよりとした雲を突き抜け、水滴のついた喫茶店「タンク」のガラス窓を通して、斜めに僕たちのテーブルに降り注いできた。
外の世界は、すっかり雨上がりの晴天になっていた。
夕陽の残照が、溶けてしまったカステラパフェを照らし、僕の左腕につけられた黒いヘアゴムも照らした。僕は振り向き、日差しの中で僕に向かって眩しい笑顔を咲かせる来夏を見つめながら、心の中で最後の戦術まとめをこっそり修正した。
たとえ運命が悪辣な冗談を言ったとしても、目の前のこのかけがえのない景色と引き換えにできるなら、どうやら……極めて割に合う取引だったようだな。
